「未来の記憶」
こんにちは。設計デザインの後藤と申します。
今回はデザイナーの端くれとして一応それに関連したことを…という書き出しで思いついたのが、2018年に新宿オペラシティで開催された田根剛の展覧会です。(5年も前の話を引っ張り出すあたり、普段デザイナーっぽいことを考えてないのがばれますね…)
ご存知の方も多いかと思いますが、田根剛は新国立競技場のデザインコンペで古墳スタジアムをデザインした建築家です。と知ったか風に言いましたが、当時興味がなかった私がこれを知ったのは2018年のことで、そこからネットで色々見ていたところ、たまたま展覧会が開催中という情報に辿り着き、自分の引きの強さを自画自賛しながらオペラシティへいそいそと出掛けました。
私がここで何を見たかというと、田根剛という人の頭の中でした。ここに貼った写真です。この人は建築を考える時、土地の歴史、その土地の記憶を調べ上げてから作業に入るそうです。にしても展示の量がすごい。しかも実際の思考回路はこの何十倍か、何百倍かに広がっているはず… とりあえず私はただこの思考に飲まれるために、しばらくの間この中を徘徊しました。
世界をこんなに深く掘り起こしたり繋げたりしたら、私なんかはすぐに飽和状態の思考停止になる。そのくせ何か知った気になる…恥ずかしい…。
展覧会を後にした私は整理されないままの思考回路でグルグルと考えました。私はちゃんと自分のこれまでを耕せてきただろうか?むやみに広げて上辺を整えたりじゃなく、ただ夢中で掘る作業がまだ足りてないのではないか?子供の頃のように公園の砂場止まりになってないだろうか?いや公園の砂場、素晴らしい。あそこをもっと掘れば良い。道具がない…手で掘ろう。砂の中はひんやりと気持ちいい。掘った砂で山を作る。
…なんだか続きを掘りたくなってきた。せっかく掘った穴を中途半端にするのはもったいないし、何か良いものが落ちてくるかもしれないし、そしてもし、掘って掘ったその先の出口のような入り口で、子供の頃の私と手が触れたりしたら、私は「そのまま掘れ」と強く握手してニヤリと笑うだろう。
この展覧会のタイトルは「未来の記憶」でした。5年前もそうだったように、今もこれを書きながら、タイムトラベルした気分になっています。そしてこんなに時が経過しても、私に膨大な独り言を呟かせるインパクトの強さでした。
ここ数年は時間の流れがとても速く感じられ、そんな中で過去のことを思いすぎても仕方がないと思ったりしましたが、記憶を経由して新たな何かを発掘することもあるような気配を今感じています。自然でもアートでもデザインでも本でも、それを通して感じたり考えたり気づいたりすることは、想像以上にそれ以後の自分を豊かにするものなので、できるだけそれを吸収出来る余白を持っていたいと思いました。
最後にオマケですが、お山のアップの写真、これは古墳スタジアムの何分の一かの模型で、作った当初は青々としたモスだったらしいのですが、時を経て徐々に変色していったとのことです。そして発見しました。ピョコッと小さな芽が出ていたのです!私は一人興奮してパシャパシャと写真を取り、この小さな新芽に「がんばれー」と心の中で声援を送りました。今現在あの新芽はどうなっただろう…枯れていたとしても私にとっては「気付き」のような新芽でした。
皆様も軽い宝探し気分で記憶の発掘作業をされると面白いですよ。それではこのあたりで…飽きもせず謎の過去日記をお読みいただき、ありがとうございました。